今、思うこと   「ブラームス」

AAFC 連続エッセイ
投稿日
2013/10/01
執筆担当
池田 充宏
 

 今、ブラームスの曲を毎日聴き続けている。
 事の発端は、ある日畏友にして私の俳句・川柳とねこ飼育の師匠でもある小川さんからのメールであった。彼が過日LPハンティングに出かけて購入したものの内、リヒテル、マゼール・パリ管のブラームス、ピアノ協奏曲第2番の演奏がいたくお気に召していつも頭の中で鳴っているとの事。当該LPはCD化されて私の棚にもあるが、どんな演奏だったか思い出せない。とりあえず聴いてみた。
 なる程、堂々たる演奏でリヒテルはあい変わらずのでき、オーケストラも健闘である。
 だが、今いち感銘が浅い。なぜだろうと考え、他のCDも聴いてみることとなった。
 さあ、そうなると、手当たり次第にこの曲のCDを取り出して聴くうちに止まらなくなった。9月に入り涼しくなって、いつの間にか協奏曲から、交響曲第4番ホ短調 作品98に移ってしまった。今は台風の目が1か所に停滞するように、私の興味はこの曲の上で留まっている。交響曲第4番はブラームス52才の1885年に完成し、その年の10月マイニンゲンにおいて作曲者の指揮で初演され、好評を博した。しかし
「ブラームスの創作活動が退歩していることは驚きである。彼はこれまでにも決して並の水準を超えて飛躍することができなかったが、それにしても無内容さ、空虚さ、そして偽善ぶりがホ短調の交響曲を支配し、他のブラームスの作品には見られなかった程に恐ろしい形で白日のもとにさらされているのである。・・・・・」 この文章はウイーンにおける初演時に新聞に掲載された、当時若く無名であった フーゴー・ヴォルフ(後に後期ロマン派の歌曲の最後を飾る作曲家として有名)の批評の一部である。ブラームス派とワーグナー派の対立の渦中でヴォルフはワーグナー派の急先鋒であった。現代ではブラームスの高い評価が定着しており、党派性などというやっかいなものを背負い込むといかに人間の理智の眼が曇るかという典型的な例だと私には思えるが、当時の人々の中には、この批判を是とする雰囲気もかなりあったようである。ドイツ・オーストリアの産業革命は遅ればせながら1830代に始まり、鉄道網の整備等を手始め徐々に進んだ。政治面ではプロシアの鉄血宰相ビスマルクがリードし1871年普仏戦争の完勝によりドイツ帝国が成立して(オーストリアを除くドイの統一)近代国家が形成された。
  時代の気運は、「改革」「進歩」であった。そんな中で第4番の交響曲は旧来通りの4楽章制の順守、第4楽章にはJSバッハ以前の形式であるパッサカリアの採用などにより保守的後向きと見なされても仕方のない一面を持っていた。一方では初演以来各地での演奏ではおおむね好評であった。
  「ブラームスの手になるこの最新作はそれ以前の作品と比べより心地よく親しみの持てる楽想によって際立っている・・・作曲者は拍手喝采をうけ何度もカーテンコールされた」
  これはライプチッヒ初演時の新聞評の一部である。ベートーベン以後、リスト(交響詩の確立)、ベルリオーズ(交響曲の中に物語の持込み)、ワーグナー(楽劇の創出)といった改革の努力がなされたが、ブラームスは外面的な改革は採らず、旧来の形式に準拠し、自己の内面を見つめ掘り下げる道を選んだ。
  交響曲第4番には、自己を世に出してくれた恩師の未亡人(クララ・シューマン=14才年長)と子供を見守り続け、彼女に対する思慕の思いを表に出さず、独身で一生を送り律気にも彼女の死後1年足らずでこの世を去った男の「人生はままならぬ」というため息が垣間見えるように私には思われる。

 今、私の手元に1枚のCDがある。
 2003年にキングレコードからリリースされたブラームスの交響曲第4番のライブレコードで、1968年5月、東京文化会館におけるヨーゼフ・カイルベルト指揮バンベルク交響楽団の記録である。私は正にこの演奏を客席で聴いた。指揮者とオーケストラが渾然一体となり全身全霊を傾けて鳴らすブラームスの音に酔った。(前年の秋聴いたショルテイとウイーンフィルのチグハグぶりと比べ何と違ったことか)パッサカリアの最後の音が鳴り終わった時、名状しがたいような感動に我を忘れた。会場全体が興奮状態にあり、拍手とブラヴォーが続いた。この演奏を聴いて以来、全4曲の中で第4番が私の最も好きな曲となった。それから彼の他のジャンルの曲への傾斜が始まった。
 カイルベルトは惜しくもこの演奏の2ヶ月後、ミュンヘンで「トリスタン」を指揮中に心臓発作で倒れ帰らぬ人となってしまった。
 この、上野での演奏が彼の「白鳥の歌」だったなと思っている。このCDにはワグナーの「名歌手前奏曲」も入っているが、これが正式なプログラムの一部なのか、アンコール曲だったのか、思い出せない。
 思えばもう45年前出来事である。
      「往時茫茫」

[蛇足]
ちなみに私の現在の「お気に入り」を以下に記しておきます(録音年順)
  ◎ピアノ協奏曲第2番 
   ・バックハウス、ベーム   ・ V・フェルツマン、H・フォンク
   ・フレイレ、シャイー
◎交響曲第4番
  ・フルトヴェングラー(48年)
  ・ワルター(コロンビア)
  ・カイルベルト(バンベルグ)
  ・バルビローリ(ウイーン)
  ・ジュリーニ(ウイーン)
「古希忘れ 秋の夜長を ブラームス」  鵜呑(私の俳号)

次は 渋谷 賢三郎さんにお願いします

 

以上

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